預貯金・借金・債務の生前整理・手続きについて
資産整理は相続発生後の家族の負担を軽減するためにも、元気なうちに取り組んでおくべき重要なステップです。今回は、「預貯金・借金・債務」について、よくある疑問に答える形で、生前に何を準備すべきかを整理します。
銀行や郵便局、信用金庫などに複数の口座があります。一本化すべきですか?
複数の口座を持っている方は少なくありませんが、それぞれの口座に個別に相続手続きが必要となるため、家族の負担は口座数に比例して増えていきます。
資産目録を作成した段階で、使用頻度が低い・残高が少ない・長期間使っていない口座(休眠口座)については、解約を進めておくのが望ましいです。
たとえば、転勤先で開設したまま放置されている口座や、給与振込専用に作られた使わなくなった口座などは、このタイミングで整理しておきましょう。
口座は3つ程度に集約すると管理がしやすくなります。おすすめの分類方法は以下のとおりです。
- 決済用口座:年金の受け取りや、公共料金・保険料などの引き落としに使う
- 貯蓄用口座:まとまった資金を保管する。信託銀行など管理体制が整っている金融機関が望ましい
- 資産運用用口座:投資信託や株式などの資産運用に使う
特に「決済用口座」は、生活圏内にある金融機関に絞ることで、利便性が大きく向上します。また、高齢になって管理が難しくなったときは、決済口座のみに一本化するのが理想的です。
クレジットカードも同様に、1~2枚に整理することで支払い確認や解約が簡単になります。
そして、解約できなかった口座がある場合は、必ず資産目録に記載しておきましょう。
なお、現在の制度では10年以上取引のない休眠口座の預金は公益活動に活用されますが、手続きを行えば払い戻しは可能です。とはいえ、煩雑な手続きが発生するため、早めに対処しておくことをおすすめします。
金融機関で保証される1,000万円を超えた預貯金はどう保管すればいい?
金融機関が破綻した際に預金者を保護する「ペイオフ(預金保険制度)」では、1金融機関につき、1人あたり元本1,000万円とその利息までが保証されます。
そのため、1,000万円を超える預貯金を1つの口座にまとめる必要はなく、むしろ複数の金融機関に分散して預ける方が、安全性は高くなります。
信頼できる大手銀行や信託銀行を選べば、1,000万円を超える資金を預けても大きな問題はありませんが、万一の事態を考えると、適度な分散はやはり有効です。
ただし、多額の現金を自宅で保管するのは避けましょう。盗難・火災・紛失などのリスクがあるため、金融機関に預けておくのが基本です。
注意点:外貨預金にはペイオフが適用されません
外貨預金は預金保険制度の対象外であり、為替変動リスクも伴います。元本が保証されない商品であることを理解し、慎重に扱いましょう。
また、資産の分散管理を行う際には、その情報を家族と必ず共有することが重要です。
資産目録には以下の内容を明記しておくと安心です:
- 銀行名・支店名
- 口座番号
- 預金の種類(普通・定期など)
- 預入額の目安
- 担当者や連絡先(わかる場合)
こうしたリストを年に1回程度、更新することが理想です。
公共料金の自動振替やクレジットカードの自動引き落としは解約すべきですか?
生前整理では、まず「不要な契約の解約」が基本です。しかし、すべてを解約すればよいわけではありません。生活に必要な支払いは残しつつ、情報を整理することが重要です。
公共料金の支払い方法には、コンビニ払いや窓口支払いもありますが、高齢になるとそれらの手続きは負担になりやすいです。したがって、電気・ガス・水道などの公共料金の自動振替は「必要な支払い」として継続しつつ、どの口座から引き落とされているかを明記し、家族と共有しておきましょう。
クレジットカードも同様で、1枚のカードにまとめておくと、以下のような利点があります。
- 支出の管理がしやすい
- 解約時の手続きが簡単
- 家族が請求書を見て、内容を確認しやすい
また、定期的なサブスクリプションサービスなど、使っていない引き落とし契約が残っていないか確認し、不要なものは早めに整理しておくと、相続後のトラブルを防ぐことができます。
まとめ
口座や契約の整理は、単なる事務手続きではありません。それは「家族の未来を整えること」であり、生きている間にしかできない大切な相続準備です。
- 使用していない口座は解約し、3つ程度に集約
- 預金が1,000万円を超える場合は、分散保管でリスクヘッジ
- 公共料金や必要な契約だけを残して、あとは早めに解約
- すべての情報は資産目録にまとめて、家族と共有
次回は、借金や連帯保証に関するさらなる整理方法や、相続放棄を見据えた準備などについて解説します。